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●『第15回国際個別化医療学会』レポート
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個別化医療におけるサポーティブセラピーの重要性

東京国際フォーラムにて再開された国際個別化医療学会学術集会において、国立台湾大学医学院准教授・付属医院外科主任医師・郭文宏医師が、「個別化医療におけるサポーティブテラピーの重要性(漢方の役割)~複合抗がん漢方薬(THL)の転移性乳がんにおけるヒト臨床試験結果~」というテーマで講演を行いました。

転移性乳がんの治療には補完・代替療法が重要な選択肢の一つ

臨床試験の趣旨は、難治性・転移性乳がんの患者さんに対し、THL-P(天仙液:中国政府から漢方薬として初めて医薬品として認可され、最新の技術によってさらに効果を高めて液体に改良・進化させた抗がん漢方薬)の安全性と有効性を調べるというものです。

郭医師は、まず転移性乳がんに対してのレクチャーを行いました。「転移性乳がんは2つのタイプに分かれます。一つは急性白血病のように進展が急速で、内臓への転移が多々見られ、治療抵抗性であるもの。もう一つは慢性白血病のように発症までの時間が非常に長く、軟骨部組織への転移が中心で、治療に対しての反応性があるもの。大半の転移性乳がんは、後者のタイプです。したがって、転移性乳がんの治療を考えるにあたっては疾患のみに目を向けるのではなく、患者さん自身の特徴も見ていかなければなりません。

▲東京国際フォーラムで講演を行う郭先生

▲講演会会場の様子

ここで言う、患者さんの特徴とは、PS(パフォーマンス・ステータス:患者さんの全身状態)、年齢、本人の治療に対する希望、閉経しているか否かなどです。また、早期乳がんと転移性乳がんでは、治療の考え方も大きく異なるといいます。

「早期乳がんは臓器レベルでの疾患であり、目標はがん細胞の完全な除去・撲滅です。しかし、全身レベルの疾患である転移性乳がんの治療は、平和的共存が最終目的になるのではないかと思います」

そのような転移性乳がんに対しては、メトロノミック治療(低用量の治療薬をメトロノームのように一定の速度で継続的に投与する治療法)などが考えられます

さらに、一般的に根治不能と捉えられ、生存期間の延長やQOL(生活の質)の向上がテーマとなる転移性乳がんの治療は、副作用が少ない補完・代替医療も重要な治療法の選択肢となってきます。

「補完・代替医療は免疫能を増強するために用いられることが多く、従来、その報告例は主観的なものが中心でした。ところが近年になり、客観的な視点での論文が、スコットランドや米国、カナダなどで発表されています。とりわけ米国においては、中国医療計画ということで、抗がん漢方薬の開発が進められている状況にあります。

THL-Pは難治性・転移性の乳がん患者への有効・安全を兼ね備えた補完・代替医療

今回、郭医師によって行われた臨床試験(無作為化プラセボ対照二重盲検法)の被験者は、20歳代から80歳代までの転移性乳がんの患者さんで、その大半が50歳代以上でありました。被験者の条件は、一次治療(最初に行われる治療)、あるいはサルベージ療法(がんが他の治療に対して無反応であった後に行う治療)の効果が不十分、かつこれ以上の従来型の治療法を受け入れる意思がないということでした。

この試験では63人の候補者のなかから条件に適合した44人のうち30人を治療群、14人をプラセボ群に割り付け、つまり、治療群対コントロール群の割り付け比率を2対1にしました。そして、被験者の大半が2ヵ所の転移が認められていたといいます。

 こうしてスタートした臨床試験では、QOLを主要評価項目としました。また、治験薬群には1バイアル20mlの「THL-P」を1日3回24週間(半年)にわたり投与し、この期間中は他の治療薬の同時投与は禁止事項としました。この試験では有効性・安全性に加え、疲労・倦怠感や、T細胞系CD3・CD4・CD8、B細胞系CD19およびNK細胞系CD56+CD16といった免疫能のチェック、治療後の状態の比較なども行いました。

その治験の結果は以下の通りです。

「治療群においては約半数が予定された24週コースを完了しました。一方、プラセボ群においては、2ヵ月を超えて治療を継続できた例は1例もありませんでした。疲労、倦怠感に関しては、ベースライン時において、プラセボ群よりも治療群のほうがスコアが悪かったにも関わらず、治療後は治療群のほうが優れたスコアになっていました。ちなみに、プラセボ群においては、その項目に関しての改善が見られた例はありません。また、乳がん特異的QOLに関しては、治療群が改善していました。免疫能ですが、CD3では治療群が増えているのに対し、プラセボ群は減っています。同様に、他の免疫細胞に関しても、プラセボ群の悪化が進んでいるのに対し、治療群は大幅に改善していました」

最後に、郭医師は、以下の結論を述べて、講演を結びました。

「1日3回、24週間にわたり、1バイアル20mlの「THL-P」を投与することで、難治性・転移性乳がんの患者さんのQOLは著しく改善しました。そして、身体機能、認知機能なども向上。疲労・倦怠感、および化学療法による副作用が軽減。さらに、リンパ球に対する免疫調節作用があることも示されました。

気になる安全性ですが、「THL-P」を服用した治療群に重篤な有害事象が起こることはありませんでした。

これらのことから、「THL-P」は、難治性・転移性の乳がん患者さんに対し、有効かつ安全な補完・代替療法であることが示されたと言えるでしょう」

▲臨床試験の結果を発表する郭文宏医師