「統合医療でがんに克つ創刊15周年記念講演会」が開催された。テーマは「統合医療におけるがん治療と漢方――これからのがん治療、あきらめないがん治療療――いのちを活かすがん治療を語る――」
講演会に先駆け、主催者挨拶として本誌発行人の吉田繁光氏からの挨拶があった。
「本誌は『がん難民を作らないために』をモットーに創刊されました。とはいえ標準治療を否定しているわけではなく、尊重していますが、現実問題として標準治療だけではすべてのがんが治らないことも事実です。そこで第一線で活躍しているドクターの皆様から有益な情報を提供いただき、がんの患者さんやご家族の方の治療の選択肢を広げる一助としての役割を果たす雑誌として誕生しました。
今まで取材させていただいたドクターの数はのべ200人以上。一方では『がんサバイバー』といわれる方たちのメッセージも寄せられています。それはがんという病気を乗り越えることにより、『自分を見つめ直すことができた』『生活習慣や生き方が変わった』というような貴重な体験談も多く見られます。
今後も本誌は『がんが難病でなくなる日まで』を目標に発行し続け、いずれ『がんは難病ではない』という日が来たとき、即座に廃刊する予定です。そのときまでは頑張って出版していきたいと思います」と語った。
最初にご登壇いただいたのは中医師、中国江西省新余市第四医院医師、中国医学協会会長、神戸大学大学院非常勤講師の今中健二先生。これまで中医学(漢方医学)に基づいたがん治療の講演・セミナー・著作などで活躍されている。今回の講演タイトルは、「中医学からの『がんを生きる知恵』」である。
今中先生は社会人経験後、中国国立贛南医学院に留学。中医師免許を取得し、新余市第四医院で治療に従事し、2006年帰国。神戸市を起点に中国伝統医学の普及に努め、西洋医学との垣根を超えた「患者の立場に立った医療技術」を伝えつつ、2020年には中国医学協会を設立。著書に『胃のむくみをとると健康になる』『医療従事者のための中医学入門』などがある。講演では中国におけるがん治療と9つの治療のメソッドを中心に解説してくださった。
①『人と話すことによる心理療法』。患者さんは孤独になることが多いものです。例えば家族に心配かけたくない、あるいは経営上、話せないということで、誰にも話せないことがあります。中国の病院では、それができる環境を準備しており、『話すこと』で悩みを解決する方向に導いています。
②『漢方薬』。中国の治療では漢方薬を用いることが多く、大きく分けて血液の浄化、デトックスや毒素を排出するという作用があります。また一方では漢方薬の特徴である『補益』という治療法もあります。加えてツボ療法や鍼治療で元気をチャージするという方法もあります。現存する中国最古の医学書『黄帝内経』によると、『人は100歳まで病気にならない』という考え方があり、調子が悪くてもリカバリーできるとされています。自然に合わせて生きれば病気にならないのです。
③中国の医療チームによる『リレー療法』では、医療のみならず食事からリハビリまでトータルで医療従事者や関係者が情報を共有し、患者さんを支えています。
④『食事療法』は、食事内容と体質などのバランスをとる必要があり、エネルギーを補ったほうがよいのか、デトックスがよいのかを見極めることが大切とされています。
⑤『音楽療法』は、いろいろなシーンで使えます。アロマ同様、リラクゼーションだけではなく、無意識下で患者さんの心を開かせたり、気持ちを落ち着かせたりテンションを高くすることもできます。
⑥『心のよりどころ療法』は、信じるものを作ることです。ぶれない心、負けない心に着地するために必要です。例えば漢方薬を信用して飲む、神棚に手を合わせるなど「自分が病気に負けない」というアンカーを作ることが大切だと考えられています。
⑦『運動療法』も大切です。がんのメカニズムに高血圧による血液由来のがんがあります。例えば乳腺炎による乳がんも乳部に血が集まることに起因します。そこでその血液を分散するために、運動療法を用いることがあります。中国医学では血液は肝臓と筋肉が関係しますので、簡単な筋トレをすることで効果を発揮することができます。
⑧『学習療法』は、中国医学で最も大きなポイントです。患者さんに「治療」をせず、「治理」を伝えるからです。「道理」を伝え、なぜ、このような病気になったのかについて、共にディスカッションし、解決策を見出していき、最終的には『治すのは患者さんご自身』であり、基本的には患者さんが生活習慣を見直していくことが求められます。
⑨最後に、振国中西医結合腫瘍病院の王振国院長から直接教えていただいたのが『自分の価値を見つける』ことです。王医師の病院では、入院患者さん一人ひとりが各々の役目を持って働いています。例えば食器を洗ったり、ピアノを弾いたりするなどして、自分の存在を輝かせます。それを医師団がサポートすることにより、患者さんが自分の価値を見つけることができるのです」以上が9つのメソッドだが、この他にも「経絡とがんとの関係」「陰陽の考え方」「舌診の方法」などについても、より深く掘り下げて聞くことができた。
次にお話をいただいたのが、医療法人広瀬クリニック院長の木許泉先生。 医学博士。三重大学医学部卒業後は小牧市民病院、公立陶生病院、名古屋大学小児科、春日井市民病院小児科医長を経て、広瀬クリニックを継承、院長・理事長として活躍中。今回の講演テーマは「がん治療に寄り添う漢方医学」。
「広瀬クリニックは、亡き父、広瀬滋之前院長が平成元年(1989年)4月に開設したものです。私自身、前院長の遺志を継ぎ、2010年7月に院長に就任しました。もともと小児科医療、アレルギー診療や研究に携わってきましたが、現在ではあらゆる疾患の治療を手がけており、漢方の患者さんはもちろんのこと、発熱外来も行っており、コロナの患者さんも今まで500人ほど診察してきました」
本講演では、「温活について」「広瀬クリニックの漢方治療の指針」「がん治療に使われる漢方薬について」「補完治療の柱、漢方エキスを用いたがん治療について」のお話をいただいた。まず治療の中で、一つの大きな柱になるのは温熱療法。広瀬クリニックでは、施設も充実している。
「父の代に当院の横に立てられたのが『リフレッシュウエーブ泉』というSGEサンドバス。これは九州の深山で発掘された天然鉱石を粉砕した後、直径3ミリのセラミックボール状に加工したものを1000℃の高温で焼き上げ、浴槽に敷き詰めたもの。セラミックサンドを50℃前後に温め、患者さんはその中に砂風呂の要領で全身を埋めて入浴します。関節リウマチ、膠原病、がん、アトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚疾患から肩こり、腰、冷え症、自律神経失調症など多くの疾患の治療・応用の一助として利用できます」
発汗作用を促し、老廃物を体外に排出するために、デトックスや体質改善などの効果に加え、美容と健康の一助としても利用できるという。同時にラドン温浴ボックス(ホルミシスルーム)も設置している。
「小さな部屋で人工的にラドンガスを発生させ、 患者さんが吸入することでホルミシス効果を得ようという発想から生まれたものです。ラドンガスは、肺から90%、皮膚から10%吸収するといわれますが、このような『温活』はとても有効で、がんの領域にも使用でき、抗がん剤の副作用の軽減や緩和医療に使うことができます」
さて、漢方については前院長時代から薬局とタッグを組んで行ってきた。使用する漢方薬は自宅でも簡単に煎じられるものが多い。
「広瀬クリニックの指針は、現代医療の良さを十分に活かしながら、東洋医学などの伝統医学や代替医療とタイアップして、新たなホリスティック(全体的)医療や統合医療の確立を目指していることです。また『心身一如』という言葉のように、心と身体は切り離せないため、漢方の知恵を使った医療でサポートしたいと思っています。患者さんの生活環境や習慣、養生など広い視野で理解し、一人ひとりの全人的な医療を目指し、患者さんが楽になるための漢方を目指しています」
漢方治療のメリットは、生薬を組み合わせ、一人ひとりに対応できるオーダーメイド治療ができること。時には驚くほど即効性もあり、どの年代でも、あらゆる疾患にも対応できる。
講演内では、がんに用いる漢方薬の詳細についても細かくご紹介いただいた。
「当クリニックは、すべての世代の方に、安全で優しい医療を提供し、地域の皆様のクリニックとなることを目指しています。患者さん一人ひとりの話を真摯に受け止め、それぞれに合った治療法を使ってお役にたちたいと思います。そのためには東洋医学をベースとした治療に加え、温浴療法、点滴療法などにも積極的に取り組んでいます。漢方医学が、がん患者さんに少しでも寄与して長く寄り添えることを切に願っています」と結ばれた。
最後にご登壇いただいたのが、帯津三敬病院名誉院長の帯津良一先生。医学博士、日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長。日本の漢方がん治療の先駆者であり、第一人者として活躍中。「がん治療の現場に身を置いて61年目」というタイトルでご講演いただいた。
「医者になり最初の20年は外科医として食道がんの手術に明け暮れていましたが、後半は東京都のがん専門病院として都立駒込病院がスタートし、そこに呼ばれて充実した7年間を送りました。ところがある時、西洋医学の限界を感じたのです。というのも再発して戻ってくる方が少なくないことに気が付いたからです。その疑問について熟考した結果、西洋医学は『身体』を診ることにおいては、他の追従を許さないけれど、『命』を診ないことに気が付きました。そこに限界があるのだと思い、『命を診る医学』を探求していたところ4千年の歴史をもつ中国医学に関心を持ったのです。『命』とは生命場のエネルギーと考えられますが、中国医学では病気などを『生命場のゆがみ』というベクトルでとらえ、『症』を見、その歪みを戻せばよいと考えることができるからです」
そこで帯津先生は東京都の衛生局に行き、中国医学の研修のため北京のがんセンターに渡航する許可を得、肺がん研究所にて中国医学を学んだ。そこで驚いたことも多い。例えば肺がん患者さんの手術の視察時だった。手術開始後、1時間は経過していると思われるときに、帯津先生が入室するとすでに手術中の3人の医師が挨拶をしてきたという。
「日本ではありえないことです。さらに胸を手術され傷口が開いたままの患者さんも私に会釈をしたのです。これには驚きました!」
理由は中国医学で使う麻酔のおかげで、医師たちは鍼などを使った麻酔で患者さんの顔や様子をみながら手術をするため、患者さんは意識があり、手術が終わると自分でストレッチャーに乗り、手を振って運ばれたという。
「西洋医学の現場では、麻酔をしている患者さんが、このような振る舞いをするとは、とても考えられないことでした」
こうして中医学を学ぶにつれて、帯津先生が疑問に思ったことがあった。それは同じ漢方治療を用いても、効果のある人とない人がいることだった。そこでどういう人に効果があるのかと効いたところ、「素直な人」という答えが戻り、素直になるためには、「気功」を3週間習わせると聞いた。当時1980年は、日本では「気功」という言葉がメディアに出てきたばかり。そこで帯津先生は気功関連書籍を20種類くらい購入し、日本に帰国。
気功のできるシステムを駒込病院内に作ろうと思ったものの、高度先進医療には向かないといわれたので病院を辞め、帯津三敬病院を設立。「中西医結合」の治療を開始した。
その後、西洋からホリスティック医学が入り、これも採り入れることになる。
「ホリスティック医学とは人間を丸ごと対象とする医学です。がんは身体だけの病気ではなく、心や命に深くかかわった病気です。そこで1987年に日本ホリスティック医学協会を設立し、ホリスティック医学を始めました」
帯津先生が外科医の頃、「命」に興味をもったのは、「手術をすると、身体の中が隙間だらけ、臓器と臓器の間は隙間ということに気が付いた」からだという。しかし、隙間の研究については研究論文も見つからず、「この隙間に『命』があると確信し、臓器と臓器との間にはネットワークのような『場』(フィールド)、つまりそこに生命場が存在しているのではないかと思った」という。
「医療とは、患者さんを中心にご家族やさまざまの医療関係者の作る『場の営み』であると思います。そこで自分の『命の場』であるエネルギーを高める努力をすることが大切なのではないかと考えるようになりました。みんなが共有する『命のエネルギーの場』が高まると、患者さんの内なる命の場が高まり、病を克服し、医療者も癒される。これが本来の医療ではないかと感じるようになりました」
ここに「養生法」の考えが入ってくるという。帯津先生が推奨するのは、江戸の三大養生書。まず一つ目に江戸時代中期 (1712年)、福岡藩の儒学者、貝原益軒によって書かれた書籍『養生訓』。健康長寿のための心得として「①道を行い、善を積むことを楽しむ。②病にかかることのない健康な生活を快く楽しむ。③長寿を楽しむ」を伝えている。
二つ目が臨済宗の僧、白隠禅師の呼吸法。白隠禅師は1685年、徳川五代将軍綱吉の時代に沼津市で生まれ、73歳のときに執筆したのが『夜船閑話』。独自の呼吸法を生み出し、健康を取り戻し、生きながらにして虚空と一体になる。生死を統合する方法を生み出した。
三つ目は、江戸末期の儒学者、70歳にして昌平坂学問所の儒官となり、亡くなる88歳まで知力や気力が衰えることがなかった佐藤一斎(1772年〜1859年)の教え。「養生の秘訣は相手を敬うことにある」という。これらの養生訓を参考に帯津先生は、一つの戦略を創造した。それは患者さんの身体、心、命によりそう治療法だ。
「死を命の終わりとして考えるのではなく、命のプロセスとして考え、患者さんと二人で戦略を考え、戦友の関係となって生き抜く方法を探すようにしました。もし戦友としての患者さんが亡くなったら、最後まで共にいます。するとしばらくしてなんともいえない、よいお顔になります。この世の務めを果たして故郷に帰る安堵の表情です。この表情を見て、死後の世界があると確信しました。医療における生と死の統合。そのようなことを学ばせていただいています」と帯津先生。
哲学的ともいえるような深い話に、多くの方が深くうなずいて聞き入っていた。