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抗がん漢方はどのようにがんに作用するのか

■生薬の配合、処方で作用、効果が違う漢方薬のしくみ

漢方薬とは、とても不思議なものに思えます。主に植物の生薬を何種類か配合、処方して漢方薬となるわけですが、その配合、処方によって作用、効果に大きな差が生じるからです。例えば、作用、効果の違うAとBの生薬を1対1の分量で配合した場合と、1対3で配合した場合、ある生薬の配合、処方で作用、効果が違う漢方薬のしくみはCとDの生薬を加えた場合などの微妙な配合、処方で効果が高まることがあります。これを漢方の複合作用、相乗効果と言いますが、生薬単品では刺激が強すぎたり、効果が少なかったものが、三つ、四つ、五つ……と配合、処方することで、劇的な効果を発揮する漢方薬が生まれたりします。

身近な漢方薬の代表的なものといえば、風邪薬の葛根湯があります。これは葛根(葛の根)を主材料として麻黄、生姜、大棗、桂皮 、芍薬、甘草などの生薬を配合、処方したもので、風邪にはとても効果を発揮しますが、葛根だけでは効果が出ません。さらに葛根湯でも、症状に応じた配合、処方によって効果が違ってきます。

また、漢方薬には各々の生薬の欠点を緩和するために使われる生薬もあります。生薬のマイナス面を他の生薬でカバーするわけです。簡単なケースとして、便秘薬として用いられることで知られる大黄甘草湯は、生薬は大黄と甘草の二つだけです。漢方で言う瀉下作用(下剤作用)のある大黄を用いますが、作用が強烈すぎるために、緩和の目的で甘草を加えることで調整されます。

▲抗がん漢方薬の複合作用

■そもそも西洋医薬の多くは漢方薬が由来

西洋医薬と漢方薬には、深い関係があるのはご存知ですか。漢方薬は主に薬用植物、つまり生薬を配合、処方してつくられているわけですが、実は西洋医薬で用いられている薬には、植物由来の薬用植物(生薬)を起源としているものが多くあります。

例えば、麻酔剤のモルヒネは、ケシの実に切れ目を入れて、流れ出た液を乾燥させたアヘン末の中にあるモルヒネという物質が起源です。鎮痛剤で有名なアスピリンは、ヤナギの樹皮の葉にあるサリシンという物質に起源があり、薬効成分になるのはサリチル酸というものです。けれども、サルチル酸は胃粘膜を刺激してしまうために、それを緩和するアセチル基というのを加えて、化学組成を変化させてできたのがアスピリンです。また強心利尿薬のジギトキシンはゴマノハグサ科のジギタリスの葉が起源、マラリアの特効薬のキニーネはキナ皮の植物由来成分が起源、抗がん剤として用いられるパクリタキセルはタイヘイヨウイチイの樹皮が起源です。

このように西洋医薬には、薬効が見つかった薬用植物から活性成分を分離、分析、合成をして、化学修飾することによって開発されている薬が多くあります。漢方薬は、こうした薬用植物を中心に配合、処方した薬です。その薬理作用、薬理効果というのは、究極的に言えば体内での化学反応の現われですので、有効成分を活用するという点においては、西洋医薬と漢方薬は同じものと考えることができるでしょう。また、薬効が見つかっていない成分が、まだまだ生薬には存在する可能性がありますので、自然由来の生薬、またそれを使った漢方薬には無限の可能性があると言えるでしょう。