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  3. 連載第1回:漢方はがんに対してどのような効果があるのか。古くから受け継がれる漢方療法とは

【連載第1回】
漢方はがんに対してどのような効果があるのか。
古くから受け継がれる漢方療法とは

■3大療法と漢方によるがん治療はどう違う?

がん治療といえば外科手術や化学療法、放射線治療といった3大療法を思い浮かべる方が多いと思います。各療法にはそれぞれメリットがあり、これらを組合せることでがん治療効果を期待できます。

しかし、3大療法には共通して、肉体的苦痛とそれに伴う生活の質の低下が懸念されます。たとえば、抗がん剤投与による嘔吐症状、白血球の減少、全身の倦怠感、食欲不振、緊張抑うつ……などに代表される症状は、治療をしていく上では重い負担となるでしょう。

そもそも西洋医学では、医学にも統計学をあてはめ、人間を同一のタイプだと捉えています。したがって、局所を診て、その治療法や薬剤の処方などには、統計処理をした結果を採用しているのです。

これに対し、漢方では、人間は1人ひとり異なるものであるという捉え方をします。"証"と呼ばれる、その人の体の状態を適切に把握することが治療のスタートラインです。漢方の歴史は、まず1つの生薬がもたらす薬効から始まり、長い歳月を費やし、幾通りもの生薬の組み合わせが試行錯誤されてきました。そして、最良の組み合わせだけが残り、継承されて現在の漢方処方が誕生したのです。

漢方ががん治療に用いられるのは、西洋医学におけるがん治療とは異なり、自然治癒力を高める効果が期待できるからです。同じ病気でも個人によって症状は異なり、時間とともに体の状態は常に変化しています。それを把握するため、漢方では医師が患者さんの話をよく聞き、顔色や体格を見たり、脈をとったりお腹を触ったりして診察するのです。

■漢方による免疫力向上が治療の鍵となる

漢方薬は、風邪のような軽い症状から末期がんのような重い症状まで、それぞれの症状に適合するように幾多の種類の生薬が配合されています。そのなかで、漢方によるがん治療においての重要な考え方として、「扶正」と「袪邪」があります。

これらは、人体の免疫力を強化し、病気(がん)に対し、攻撃を加える「攻補兼施」と呼ばれています。

扶正の働きは個人の免疫力を高めることで、攻補の"補"にあたる「補剤」と呼ばれています。その代表が、十全大補湯や補中益気湯です。

漢方生薬(漢方薬を構成する原料)では、人参、白朮(びゃくじゅつ)、黄耆(おうぎ)などが免疫機能を改善すると言われています。

一方、袪邪の働きを持つ漢方薬は攻補の"攻"にあたる「攻剤」と呼ばれています。世の中にある「抗がん漢方薬」の多くはこれにあたるもので、がん遺伝子を正常な遺伝子に修復し、邪気を取り除く働きがあります。

また、抗がん漢方薬ではないのですが、小柴胡湯や補中益気湯は体質改善の働きが強いことが知られています。柴胡の主成分であるサイコサポニンは、老化を促進する活性酸素の働きを抑制する働きがあるのです。

■QOL(生活の質)を守る漢方によるがん治療

漢方薬には免疫増強作用を持った生薬が豊富です。加えて、漢方の強みはそれら生薬が効果的に働くような身体の状態に仕上げるための作用と配慮がなされている点にあります。

人参・黄耆・朮・茯苓・甘草などには感染防御や抗腫瘍に働く細胞性免疫を活性化させます。

また、補中益気湯の投与により、ヘルパーT細胞の機能分化を優位にする作用があることが報告されています。気血双補剤の人参養栄湯や十全大補湯は、骨髄造血機能を回復させる効果も証明されています。

以上のように、漢方には体全体のひずみを是正し、栄養不全・加齢・ストレスや慢性疾患における細胞性免疫機能の低下を改善する作用が期待でき、身体に大きな負担をかけず、QOL(生活の質)を守るのに適したがん治療の手段の一つとなっています。

【連載第2回】がん治療に漢方が本当に必要な人とは?
4つのパターンから考える

【連載第3回】がん治療にはどのような種類の漢方が効果的なのか

【連載第4回】漢方によるがん治療の費用はどのくらいか

【連載第5回】がん治療に対する漢方を処方してくれる病院は?