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【連載第2回】
がん治療に漢方が本当に必要な人とは?
4つのパターンから考える

■がん治療に漢方が必要な人の特徴は4つのパターンに分けられる

外科手術ができない。抗がん剤投与・放射線照射の副作用が強く現れる……。等の理由で、標準的ながん治療を中断しなくてはならない、あるいは続行できないケースがあります。

こうした場合、患者さんは標準治療以外の代替療法を取り入れることが少なくありません。その代表的なものの一つが漢方だと言えるでしょう。

がん治療において漢方を必要とする患者さんの特徴はさまざまですが、大別すると次の4つのパターンに分けることができます。

  • ⑴抗がん薬としての作用を目的にしている。
  • ⑵外科手術後の合併症の軽減、予防を目的にしている。
  • ⑶抗がん剤治療・放射線照射の副作用軽減、予防を目的にしている。
  • ⑷栄養状態改善・免疫力増強を目的にしている。

それでは1つずつ見ていきましょう。

⑴抗がん薬としての作用を目的にしている。

がん治療における外科手術や放射線治療の前に、免疫力・体力上昇のため、補材の漢方薬が使用されています。そのなかでも、十全大補湯は、がん発生要因の1つである活性酸素の消去能力が高く、がん再発抑制につながる可能性が高いとされています。マウスによる発がん試験では、十全大補湯の投与によって腫瘍発生率が抑制されることがわかっています。

その他、免疫力の向上に用いられる補剤としては補中益気湯が有名です。この漢方は、十全大補湯と異なり地黄成分(滋養強壮作用のある生薬で、比較的胃に負担がかかる傾向がある)が入っていないので、胃腸の弱いがん患者さんにも投与することができ、よく使用されています。

⑵外科手術後の合併症の軽減、予防を目的にしている。

がん治療における外科手術の後に起こり得る出血や縫合不全、感染などの合併症が長引いたとき、漢方薬によって効果が見られることが多々あります。

外科手術後の出血や縫合不全、感染などの合併症の急性時は輸血や抗生剤などの西洋医学的対処が第一に考えられますが、回復が長引いたときには漢方薬が用いられる場合があります。

たとえば、腸閉塞には大建中湯、食欲不振には六君子湯、咳には麦門冬湯、浮腫には五岺散・柴岺湯、全身倦怠感には補中益気湯や十全大補湯、排尿障害には牛車腎気丸、黄疸・肝機能障害には茵蔯五苓散……が用いられます。

このなかで、術後の腸閉塞への大建中湯はエビデンス(科学的根拠)もあり、よく使用されています。その他の漢方薬の使用に関しては、医師によって多少、意見の相違があるようです。

⑶抗がん剤治療・放射線照射の副作用軽減、予防を目的にしている。

がん治療における抗がん剤あるいは放射線の副作用によって起こる症状に対して漢方薬を用います。

抗がん剤の副作用に対する主な漢方薬には、次のようなものがあります

オキサリプラチンやシスプラチンによる手足の痺れや冷感などには牛車腎気丸・芍薬甘草湯・疎経活血湯、同じくオキサリプラチンやシスプラチンによるはき気・食欲不振・嘔吐には六君子湯、パクリタキセルによる手足の痺れや冷感・痛みなど(末梢神経障害)には牛車腎気丸・芍薬甘草湯、イリノテカンによる下痢には半夏瀉心湯、ドキソルビシンによる口内炎には半夏瀉心湯、5FU系経口剤(TS‐1・カペシタビンなど)や分子標的薬(セツキシマブ・スニチニブなど)による皮膚炎・手足症候群は桂枝茯苓丸+柴苓湯などが用いられます。

本来、漢方薬は個人の体質や状態に準拠して処方されます。しかし、がん治療をしていく中で、がんが進行した状況では、そのほとんどの方々が体力低下状態に陥っていて、同じ漢方薬が処方される可能性が高くなります。

また、での放射線治療で起こる副作用も抗がん剤による副作用とほぼ重なります。したがって、放射線治療の副作用に対する漢方薬は、先述の抗がん剤治療による副作用と同様な処方で対応が可能です。

ただ、放射線治療にでは、皮膚のただれと、唾液腺障害による口腔内乾燥などの特異的な副作用があります。それらの症状には、麦門冬湯がよく投与されます。

⑷栄養状態改善・免疫力増強を目的にしている。

栄養状態の改善目的およびがん治療における免疫力増強のための漢方薬は、手術前の一時期にも使用されますが、主にがんが進行した状態で使用されます。

進行がんで問題になるのが疼痛(がんによって引き起こされる様々な痛み)です。しかし、残念なことに、がん性疼痛に対する漢方薬の効果は、西洋薬の消炎鎮痛剤やモルヒネなどには及びません。

それでも疼痛を助長する因子の不眠や不安、便秘などを改善するには、漢方を使用することでよい適応があります。

加えて漢方には疼痛の閾値を上げて痛みを感じにくくする作用があります。漢方的には、冷えが痛みを助長するという考えがあり、「体を温める作用」を持った漢方薬を用いることでがんによる痛みを軽減できると考えられているのです。

がん治療に対する身体の免疫力向上や抗がん作用を期待する方、予防目的の方、さらには標準治療による痛みの緩和を求める方など、漢方はがん治療において様々な用途で使用する機会がありそうです。

【連載第1回】漢方はがんに対してどのような効果があるのか。
古くから受け継がれる漢方療法とは

【連載第3回】がん治療にはどのような種類の漢方が効果的なのか

【連載第4回】漢方によるがん治療の費用はどのくらいか

【連載第5回】がん治療に対する漢方を処方してくれる病院は?