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【連載第3回】
がん治療にはどのような種類の漢方が効果的なのか

■がん治療に用いられる生薬の種類

漢方薬は「生薬」を素材としています。その生薬は自然界に存在する物質で、何らかの薬効を持っている植物・鉱物・動物を原料としています。
漢方においては生薬を単独で用いることはほとんどありません。少なくとも2種類以上の生薬を配合・処方して「漢方薬」として用いるのです。がん治療に使われる生薬は、概ね次のようなものです。

「人参(にんじん)」

人参はウコギ科オタネニンジンの根を乾燥させた生薬で、「朝鮮人参」の名で知られています。有効成分として、ジンセノサイドというサポニン群があり、がんをはじめとして糖尿病、動脈硬化、滋養強壮に効果があるとして古くから用いられてきました。また、12種類のサポニン、14種類のアミノ酸、ポリペプチド、多糖類、ビタミン、ニコチン酸、それにナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、銅、亜鉛、ゲルマニウムといった微量元素などが含まれています。

人参中の多糖類には、肝臓の保護作用、免疫機能向上作用、細胞変異抑制作用などがあります。したがって、総体として、がん細胞の成長を抑制することも複数の試験によって確認されています。加えて、抗がん剤と併用したときには、副作用を軽減するとともに治療効果を高めます。

「冬虫夏草(とうちゅうかそう)」

冬虫夏草(とうちゅうかそう)は、コウモリガ科の蛾の幼虫に寄生するバッカク菌科に属する真菌(キノコの一種)で、菌糸体と子実体があります。有効成分として各種の多糖類、虫草酸、デオキシアデノシン、コルジセビン、セレン、ビタミンB12などを含み、免疫系や内分泌系、心臓循環器系、腎臓泌尿系などに効能があります。また、抗がん作用においては免疫賦活作用として、ナチュラルキラー細胞の活性化、単球やヘルパーTリンパ球の活性化作用が認められています。

「霊芝(れいし)」

霊芝(れいし)は、サルノコシカケ科マンネンタケの子実体で、別称を万年茸、門出茸、吉祥茸などと言います。有効成分としてβ‐D‐グルカンなどの多糖類、ガノデリン酸などのトリテルペン類が多く含まれていて、免疫活性作用や抗がん作用があります。

「黄耆(おうぎ)」

黄耆(おうぎ)は、マメ科キバナオウギの根から精製されます。フラボノイド、サポニン、ソーヤサポニン(大豆サポニン)、γ‐アミノ酪酸(ギャバ)、多糖類、単糖類や微量元素などの有効成分が含まれています。免疫増強作用、止汗、強壮、利尿、血圧降下作用などがあり、抗腫瘍や肝機能不全、急性・慢性腎炎をはじめ、虚弱体質、栄養不良の改善などに対して用いられます。免疫増強作用では、生体の病原微生物に対する免疫効果、Tリンパ球の機能強化などが確認されています。

「白朮(びゃくじゅつ)」

白朮(びゃくじゅつ)には、オオバナオケラ由来の唐白朮と、オケラ由来の和白朮があります。その有効成分としては、油精分(アトラクチロン、3‐β‐アセトキシアトラクチロンなど)、クマリン、糖質などの成分が含まれていて、消化管および皮下組織中に起こる水分代謝の不全に対して利尿や発汗を促し、漢方でいう「水毒」を除く妙薬として、腎臓機能の減退による利尿の減少、胃腸炎などに用いられています。また、免疫機能を高めることでがん細胞を殺傷する作用、抗がん剤・放射線によって減少した免疫細胞を回復・増加させる作用があります。

「山薬(さんやく)」

山薬(さんやく)は、ヤマイモ科のナガイモやヤマイモの根茎の皮を剥いて乾燥させたものです。そのなかに含まれているコリン、サポニン、アルギニンなどの特殊成分は、内臓機能を高めたり、精力を増強したりする働きがあります。

「珍珠(ちんじゅ)」

珍珠(ちんじゅ)は、アコヤガイ、クロチョウガイなどの外套膜組織にできたカルシウムの結晶と有機質層(主にタンパク質コンキオリン)が交互に積層し、真珠層が形成されたものです。抗ヒスタミン作用、鎮痛作用、解熱作用、抗アレルギー作用、精神安定作用、新陳代謝促進作用があります。

「女貞子(にょていし)」

女貞子(にょていし)は、モクセイ科トウネズミモチの果実を精製したものです。その成分には、オレアノール酸、ペツリン、ルペオール、マニトール、オレイン酸、リノレン酸、パルミチン酸、脂肪酸などが含まれています。脂肪酸には、血清脂質の低下作用をはじめ、鎮咳作用や免疫増強作用があります。

「茯苓(ぶくりょう)」

茯苓(ぶくりょう)は、サルノコシカケ科マツホドの菌核を乾燥させたものです。β‐グルカンの多糖体パキマンが主成分で、その他にもトリテルペノイドのパキミ酸、エブリコ酸、デヒドロエブリコ酸などが含まれています。血糖降下、利尿、鎮静、滋養、強壮作用などの薬理作用があります。

「芍薬(しゃくやく)」

芍薬(しゃくやく)は、ボタン科のシャクヤクやシベリアシャクヤクの根から精製されます。モンテルペン配糖体のペオニフロリン、オキシペオニフロリン、ベンゾイルペオニフロリン、アルビフロリンなどが含まれています。抗炎症、抗菌、血圧降下、鎮静、抗痙攣などへの薬理作用があります。

前述した生薬以外にも、がん治療に用いられる生薬として、甘草(かんぞう)、天花粉(てんかふん)、白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう)、青黛(ちんたい)、猪苓(ちょれい)、莪朮(がじゅつ)、枸杞子(くこし)、天南星(てんなんしょう)、半枝蓮(はんしれん)、威霊仙(いれいせん)、葛根(かっこん)、桂枝(けいし)、柴胡(さいこ)、地黄(じおう)、生姜(しょうきょう)、川芎(せんきゅう)、大黄(だいおう)、大棗(たいそう)、当帰(とうき)、半夏(はんげ)など様々な種類の生薬が挙げられます。

【連載第1回】漢方はがんに対してどのような効果があるのか。
古くから受け継がれる漢方療法とは

【連載第2回】がん治療に漢方が本当に必要な人とは?
4つのパターンから考える

【連載第4回】漢方によるがん治療の費用はどのくらいか

【連載第5回】がん治療に対する漢方を処方してくれる病院は?